
最近巷で「データサイエンティスト」という職業をたびたび耳にするようになりました。ですが、具体的な仕事内容となるとあまり知られていないのではないでしょうか。そこで今回はデータサイエンス人材育成のための活動を行うWiDS TOKYOでアンバサダーを務める横浜市立大学 データサイエンス学部 准教授 小野 陽子先生にお話をうかがいました。

データの力で未来を開く、データサイエンス
Happyデジタル:
データサイエンスという言葉を最近よく聞きますが、具体的にはどのようなジャンルを指すのでしょうか。
小野陽子先生(以下、小野先生):
ビッグデータをもとに解析し、これから起こる予兆やシグナルを見つけていく分野です。単に分析するだけでなく、今までの解析手法では見過ごされてきたようなシグナルを柔軟な思考で見つけ出し、そこにさらなる解析をかけて新たな価値を創造できる人材がデータサイエンティストと言えます。
Happyデジタル:
比較的新しい分野だと思いますが、小野先生がデータサイエンスをご専門になさったきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
小野先生:
私が学生の頃はまだデータサイエンスという概念がなく、数理統計を専門にしていました。これは理論をコンピューターの力で自動証明させるという分野で、学内だけでなく自治体や官公庁といった現場からの依頼を受け、医療や災害予防など様々な分野で計算を行いました。計算結果から理論は証明できるのですが、その一方で人の気持ちや行動は理論通りというわけにはいきません。データがあれば何でも結果が出るというわけではないですよね。とはいえ近年はビッグデータやAI(人工知能)などから人の行動やつぶやきも解析できるようになり、データサイエンスという概念が広がってきました。そうこうするうち2018年に横浜市立大学(YCU)に首都圏初のデータサイエンス学部が新設され、そちらで教鞭をとるようになりました。
Happyデジタル:
これからさらなる広がりを生む、未知なる可能性を秘めた分野なのですね。ところでデータサイエンティストになるにはどんな能力が必要なのでしょうか。
小野先生:
アメリカでは、データビジネス力・プログラミング力・数学統計の3つすべてが分かる人材と定義づけられていますが、実際にはこの三分野をすべて理解するというのは難しいのではないかと思います。それよりもデータに対して興味が持てること、協調性があることの方が大切です。すべてを深く理解していなくてもそれぞれの分野のエキスパートがチームを組んで協力すればよい結果を出せるわけですから。また、自分の思い入れで分析結果を曲解することのない客観性・公平性も必要です。データサイエンティストに性別は関係ありませんが、広くいろいろなことに興味を持つことができる女性に向いている職業とも言えます。

Happyデジタル:
理系出身の方が就く職業というイメージがあります。数学が苦手な文系出身者でもなれるのでしょうか?
小野先生:
もちろんです! 計算ができることよりも根本にある何かや問題点を発見できるセンスがあることが重要で、実は私も計算ミスはしょっちゅうあります。分析ができるだけでなく、結果や自分の考えをうまく可視化して周りに説明できるプレゼン力、解析に意味を見出し発展させるマーケティング力も必要です。YCUのデータサイエンス学部にも文系出身の学生は多数います。むしろ数学が苦手だったという方にこそもう一度来ていただきたいです。
次世代データサイエンティストをサポートする、WiDS TOKYOの取り組み
Happyデジタル:
小野先生は次世代のデータサイエンス人材を育成する活動を行う「WiDS TOKYO」のアンバサダーも務めていらっしゃいます。具体的な活動内容についてお聞かせください。
小野先生:
WiDSとは「Women in Data Science」の略称で2015年にスタンフォード大学を中心として始まった活動です。当時、データサイエンス関連の学会で登壇するのは男性ばかりだったため、女性にもっと登壇してほしい、またロールモデルとなる女性を知ることでデータサイエンティストを志す女性も増えてほしいという主旨で活動しています。
Happyデジタル:
2019年9月にはWiDSの本拠地であるスタンフォード大学よりJudie Logan氏が来日、米国におけるデータサイエンスの現状と未来について講演されました。

小野先生:
米国をはじめ世界各国でもデータサイエンス人材は不足しており、早期の育成が望まれています。他にも活動の一環として2019年3月には「第1回WiDS TOKYO@Yokohama City University」を開催し、学生と一般(社会人)によるアイデアコンテスト「アイデア・チャレンジ2019」を行いました。もともと統計分野に男性が多かったことからデータサイエンスに関わっている方にも男性が多いのが現状です。女性がまったくいないわけではないのですが、女性の場合は結婚や出産などライフスタイルの変化で離れてしまうことも多いためです。将来的にもニーズの高い分野ですし、いったん職を離れたとしても前職のスキルを生かせる職業としてオススメです。

Happyデジタル:
医療や株式市場、フィンテックなどデータサイエンスを生かせる場が多岐に渡っている分、多様な背景を持つ人材が求められているということですね。実際にデータサイエンスの仕事に就くにはどうしたらよいのでしょうか?
小野先生:
まずご自分のスキルを明確にしていただいて、その上でさらに基本的な統計、情報教育を受けていただくのがよいと思います。いったん社会に出た後、リカレント教育(社会人の再教育)を経てキャリアを積まれる方が多いのもこの分野の特長です。
Happyデジタル:
デジタルサイエンス分野は女性にとっても将来性があるのでしょうか?
小野先生:
はい、その可能性は大きいと思います。元システムエンジニアやプログラマーだったという方はもちろん、他の職種だった方でもそれぞれのご経験を生かして、データサイエンティストにチャレンジしていただきたいです。機密性の高いデータを扱うことも多い分野ですが、分析ツールの組み立てやプレゼン資料作成の部分は在宅で作業したり、プロジェクトベースで毎回新たにチームを組んで作業するなど、新しい働き方ができる分野だと思います。日本の改革の担い手として活躍の場は広がっています。ぜひ興味を持っていただきたいです。

Happyデジタル:
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
~取材を終えて~
何だか敷居が高そうと感じていたデータサイエンスでしたが、小野先生のお話をうかがって身近に感じることができました。機械学習やディープラーニングなどAI化がますます進むこれからの社会でデータサイエンスが果たす役割はより大きくなっていくのではないでしょうか。データサイエンティストに将来の可能性を感じました。
WiDS TOKYO@Yokohama City University
https://wids-ycu.jp