Talk UX 2020 「グローカルUXリサーチ – 新しい働き方」中野教子さんのセッションレポート

Talk UX 2020 「グローカルUXリサーチ – 新しい働き方」中野教子さんのセッションレポート
by 早川かずこ 公開日:2021/01/28 / 最終更新日:2021/03/23

Ladies that UX(UXに関する女性の世界50都市ネットワークのコミュニティ)の年次カンファレンス「Talk UX 2020 REMOTE EDITION」が11月1日から5日まで世界同時開催されました。今回は、YouTubeのTalkUXチャンネルを介した完全リモート開催の最初の年となりました。 

5日間で30近くのセッションが開催され、11月2日には日本代表としてHappyデジタルAcademy講師予定でもある中野教子さん(以下、中野さん)が「グローカルUXリサーチ – 新しい働き方」と題してスピーチされました。こちらの模様をレポートします。 

当日はYoutubeでライブ配信されました。現在も以下よりアーカイブで視聴できます。 

NORIKO NAKAO     Glocal UX Research – New Way of Working 
https://youtu.be/ooXJUb2-JHQ

ユーザーの声をデザインに吹き込みたく、開発者からリサーチャーへ 

中野さんは、日本企業向けのリサーチトレーニングサービスと外国企業向けのユーザーリサーチサービスを提供する株式会社ジャパン・ダイレクト・リサーチの経営者です。現職の前は、外資系企業(P&G、ロレアルなど)製品開発部門で約25年間のキャリアをお持ちです。最初はパーソナルケア製品の製品設計者として、次に消費者リサーチのスペシャリストおよびマネージャーとして、主にグローバル企業での新製品開発のために各地域の消費者の総合的なリサーチを実施してきました。 

ユーザー視点が製品開発には大事であると感じ、開発者からリサーチャーの道へ進んだとのこと。作り手が良いと思っていても、ユーザーにとって価値がなければ意味がないので、ユーザーと開発者のウィンインを目指して仕事をしているそうです。 

以下、中野さんのスピーチ概要です。 

冒頭、モデレーターのMariana Ozakiさんと挨拶を交わす中野さん
▲冒頭、モデレーターのMariana Ozakiさんと挨拶を交わす中野さん 

グローバルプロジェクトのリサーチ方法について 

通常のグローバルプロジェクトでは、複数の国々でリサーチを実施するため、効率を最優先し、標準化された方法で行うケースがほとんどです。しかし標準化された方法ではユーザーのフィードバックが取れない場合は、現地(中野さん)からプロジェクトへリサーチ方法などを提案する時があります。その時は、ユーザーへのインタビューだけでなく、ユーザーがおかれた状況や文化や社会背景等の情報も踏まえてリサーチを提案し実施しています。 

具体例として、2つの事例を見ていきます。 

文化的要素が影響した2つのケース 

1つ目のケースは、アイメイク製品の個別インタビューです。これは、グローバルデザイナーによって開発されたもののフィードバックを日本人のユーザーから得ることを目的としていました。当初、個別インタビューの発言からユーザーの本音が得られると想定されていたのですが、実際には製品について気に入らなかった場合、ユーザーが遠慮して製品の問題点をはっきり言葉で表さないということがありました。一方で、発言だけではなく、顔の表情やボディランゲージも加味してユーザーの洞察・感性を理解することは大変重要な要素であるという知見を得ます。 

アイメイク製品の事例
▲アイメイク製品の事例 

2つ目のケースはスキンケア製品についてのフィードバックを得るため、オンラインコミュニティによるリサーチです。このオンラインコミュニティによるリサーチは、想定以上に活発で、ユーザー自ら情報収集を行い、ユーザー自身の日常生活だけではなく、家族の写真や製品写真もアップロードされ、ユーザー経験についての非常に豊かな知見を得ることができました。またユーザーのクリエイティブな発想で製品に対する肉付け的な情報もありました。 

スキンケア製品の事例
▲スキンケア製品の事例 

2つの事例から、その国や文化に適したコミュニケーションを踏まえてユーザーリサーチを行うことが、より深くユーザーを理解し、ユーザーにとって価値ある製品デザインに重要であることがわかります。これらの例は、日本人のユーザーについてですが、もちろん国や文化の違いによっては、1対1のインタビューの方がうまくいくケースもあります。 

そのため案件によって、リサーチ方法に適切なアプローチを選択をし、ユーザーインタビューやユーザーリサーチを行っています。 

COVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミックによる働き方の変化 

新型コロナウイルスにより、対面によるユーザーリサーチにも大きな影響が出ています。4月にパンデミックが発生して以来、対面によるインタビューは激減し、ユーザーリサーチでは、zoomのようなオンラインプラットフォームを利用してインタビューするオンラインリサーチを数多く行っています。数ヶ月前からは感染防止に最大限に注意し、対面での調査も再開しましたが、対面でのインタビューは限られているのが現状です。そのような背景の中、UXリサーチへの挑戦として3つのポイントを掲げています。 

UXリサーチの3つのポイント 

1つ目はグローバルチームとローカルとの連携と信頼関係 

これまでは、グローバルチームが現地に向かい、直接会ってリサーチの準備やフィールドワークを進めていましたが、今は海外渡航ができないので打ち合わせはオンライン会議を開催しています。オンライン会議の問題は、時差があり、時々質問やリクエストが遅れること、さらに試作品(プロトタイプ等)を一緒に触れる事などができず、コミュニケーションのずれが生じやすい状況です。そのような中で、できるだけ信頼関係を構築すべく、情報の不足や誤解が起こりそうな場合は、敏感に察知し、連携を意識して取り組んでいます。 

2つ目は人としてのセンサーを駆使し、ユーザーを理解すること 

ユーザーと直接会って話を聞くことができない中、ユーザーの状況を理解するが限られている状況です。オンラインでは、画面上のユーザーの表情や声を手がかり、また対面ではマスクで表情を見ることができないので、声のトーンを手がかりにユーザーの意識を感じ取る等、工夫を重ねながらインタビューを行っています。 

3つ目は現場へのアクセスできるローカルのUXリサーチャーと連携 

ユーザーリサーチには、小売店等のユーザーの接点を自分の目で確認することが重要ですが、今はそれをするのがとても難しい状況です。つまり、コロナウイルスの影響の中でのフィールドワークは非常に限られています。特にユーザーとの接点といった場合、携帯電話やコンピューターなどのデジタルツールを利用しているユーザーにしかアクセスできないため、デジタルツールを使用していない人々の情報が不足しており、UXリサーチを考えるには非常に多くの課題があります。そのためには、デジタルツールを使用しないユーザーと接点を持つ人との連携で幅広くユーザーの声を拾うことが重要になってきています。 

グローカルリサーチへの3つのアドバイス 

最初のアドバイスは、ローカルネットワークをより活用することです。つまり、プロジェクトを進めるひとがすべてを決めるのではなく、その地域のネットワークの力を借りることで、地域の実情にあったUXリサーチを行うことができます。 今回のコロナウイルスの影響下、日本の多くの女性フリーランサー、中小企業の女性経営者と繋がりができました。これらスキルの高い人々が、私が取り組むグローバルプロジェクトを支援しています。 

2つ目のアドバイスは、ユーザーリサーチにはユーザーにとって自然体でいられるリサーチの環境を用意することが大事ということです。また、リサーチャーも従来の方法にこだわらず、ユーザー視点でリサーチのアプローチを模索する必要があります。 

3つ目のアドバイスは、翻訳に頼らず、ことばの裏にあるニュアンスに注意を払うことです。例えば、日本語の場合は、漢字、ひらがな、カタカナでの表現や同音異議の言葉が多様にあります。さらに年齢層や属性によって、同じ言葉でもニュアンスが異なることに注意が必要です。このことは、日本から海外でリサーチを行うときも同じことが言えます。 

グローカルUXリサーチの提案 

スピーチのまとめとして、ローカルコラボレーション(グローバル製品クリエイターとローカルとの協力関係)によるグローカルUXリサーチを提案します。新型コロナウィルスの影響は、グローバライゼーションを後退させるのではなく、グローカライゼーションを推進する機会になっていると言えます。 

グローバル製品クリエイターとデザイナーに向けては、リサーチのための臨時のサプライヤーではなく、長期的な地元のパートナーを見つけることです。長期的なパートナーを構築したらローカリゼーションを担えるような提案ができる信頼関係を構築する必要があります。 

各地域のUXリサーチャーに向けては、目に見えないけれど大事な関連情報を翻訳し、グローバルプロジェクトの考え方に沿ったユーザーの洞察を伝えることが重要です。 

最後のスライドは「GLOCAL COLLBORATION」と中野さんのからのメッセージです。
▲最後のスライドは「GLOCAL COLLBORATION」と中野さんのからのメッセージです。 

新型コロナウイルスはすぐには収束しないでしょう。環境は変化し続けますし、私たちも探求し続ける必要があります。Ladies that UX はグローバルに相互にコラボレーションするのに本当に良い場所です。お互いに協力し合っていきましょう。 

【セッションを終えて】 

記者は、UXリサーチはグローバルな視点だけでなく、地域性を考慮したグローカルな視点が非常に重要であるという中野さんのメッセージが印象的でした。グローバルネットワークは専門企業に属さなければ遠い存在と思っていましたが、今回のセッションに参加しLadies that UX のようなグローバルネットワークを身近に感じることができました。また、中野さんのUXリサーチに対する探究心・楽しさを感じることができ、セッション自体が楽しかったです。 これからの時世や地域の状況に合わせて柔軟なUXリサーチの手法、グローカルコミュニケーション・グローカルコラボレーションが求められていると認識できました。中野さんは、「HappyデジタルAcademy」のデータサイエンティスト育成講座にご登壇いただく予定です。講座も楽しみです。 

番外編 

スピーチの後にはQ&Aがあり、モデレーターの Mariana Ozakiさんよりオンライン参加者からの質問が3つ紹介されました。参加者の質問への実務経験豊富な回答にも見応えがありました。 

▲オンラインQ&Aセッションの様子 

Ladies that UX Tokyoについて 
Ladies that UX Tokyo 代表: 戸田 江里子(株式会社ハッピーコム 代表取締役) 
活動概要はこちら  https://www.meetup.com/Ladies-that-UX-Tokyo/ 

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